研究内容RESEARCHES

広島大学大学院先進理工系科学研究科 スマートイノベーションプログラム
スマートロボティクス研究室 教授
石井 抱 Idaku ISHII
>> 研究テーマ
1秒間に1000コマ以上の実時間画像処理を実現する高速ビジョン技術を始めとして、人間の感覚能力を遥かに上回る実時間センシング技術の確立を目指した情報システム/デバイスの研究開発を行うとともに、高速化・集積化を念頭においたアルゴリズムの研究、さらには人間には感じとることが難しい振動ダイナミクス等の情報を積極的利用した新たなセンシング技術の実現を目指します。

心筋梗塞モデルラットの心運動解析

本研究では、虚血性心疾患の新薬開発における薬効評価系を最終的なターゲットとして、開胸した実験小動物の心運動を高フレームレートで三次元計測する心臓モーションキャプチャシステムを構築した。また虚血性心疾患に対する定量化指標として、三次元心動信号に基づき計算される心筋面積変化率を定義した上で、心筋梗塞モデルラットを用いた検証実験を通じ、虚血に伴う心筋組織の運動低下領域が時空間遷移する様子を定量化及び可視化できることを示した。

実験動物の心臓における心筋組織の局所的な拡張・収縮運動を、ステレオビデオ画像に基づき定量化するために、1) 高フレームレートでのビデオ画像撮影、2) 心臓表面への微小マーカの貼付、3) 三角形領域に基づく心筋面積計算 を導入した心臓モーションキャプチャシステムを構築した。 構築したシステムは、512×512画素の8ビットカラー画像を1000fpsで取得する2台の高速度カメラを用いて、開胸された心臓上に貼付された直径0.5mm前後の青色マーカについて三次元位置計測を行い、近接する三点のマーカが囲む三角形領域に基づく定量化指標を用いて、局所的な心筋組織の拡張・収縮運動を定量化した。 具体的には、三角形面積を正規化した心動信号及びその心筋面積変化率を用い、実験動物の心臓運動(ラットは4〜5回/秒)の拡張・収縮運動の時空間遷移の定量化・可視化を実現した。

左冠動脈前下行枝を絹糸で結紮することにより、虚血状態を発生させた心筋梗塞モデルラットに対して、心臓運動のモーションキャプチャを行った。結紮後1, 4, 7, 10, 13, 16, 19, 22, 26分後の心筋面積変化率を空間マップとして表現したものを下図に示す。左心室から徐々に色が黒くなり始め、時間経過とともに,左冠動脈前下行枝を結紮した後、梗塞領域が左心室を中心に拡大する様子が可視化され、左心室の多くの部分が梗塞したことがわかる。これらの現象は,左冠動脈前下行枝の結紮により生じた左心室を中心に虚血状態が長く続いた結果、心筋組織が壊死したことに対応している。このように構築した心臓モーションキャプチャシステムでは、虚血性心疾患における特徴的な心運動の変化を定量化できることがわかる。


キャプチャされた三次元心臓運動 WMV動画(1.9M)
キャプチャされた三次元心運動